銀座いなり探訪

銀座いなり探訪

銀座いなり探訪 第17回 豊岩稲荷

銀座の街はそのホスピタリティの質の高さにも定評があります。それは単に設備の多さや人気店の数だけで保たれるものではありません。来訪した方がいかに楽しめるか、という心くばりの厚さが物を言うのではないでしょうか。

銀座七丁目に鎮座する豊岩稲荷神社。資生堂パーラーの近くにある。
銀座七丁目に鎮座する豊岩稲荷神社。
資生堂パーラーの近くにある。
宇井野
荻窪さんは豊岩稲荷様はご存じでした?
荻窪
実はですね、2017年にたまたま前を通りがかって、「こんなところに稲荷が?」とびっくりしてiPhoneで写真を撮ってたのが発掘されました。
豊岩稲荷初訪問時に、次はちゃんと参拝しようと撮っておいた写真。
豊岩稲荷初訪問時に、
次はちゃんと参拝しようと撮っておいた写真。
宇井野
さすが、街歩きのエキスパート。既に画像を抑えてらしたとは。参拝もされました?
荻窪
それが通りがかったのが夜だったので。初見で夜だと入りづらいですよね。なので、初参拝はそのちょっとあとになります。宇井野さんは?
宇井野
私が銀座の諸稲荷の中で初めて知って、お参りしたのは実は豊岩稲荷様なんです。
荻窪
はじめての訪問先が豊岩さんというのはなかなか珍しいのでは? 通りに面している稲荷もいっぱいあるのに。ピンポイントで豊岩稲荷に直行したんでしょうか?
宇井野
うーん、直行というわけでもなくて…まだ学生だった頃で、自力で銀座に行くといえば、ソニープラザの輸入雑貨を買いに行くくらい。たまたま友人のお姉さんから「銀座に、女性を守ってくれる稲荷があるよ」という話を聞いたんです。
ウキウキと買い物に行った時にその話を思い出し、恋の成就のためにお参りに行ってみなきゃ!と思い立ちました。
荻窪
で、どうでした?
宇井野
正直、ちょっと怖くてびっくりしました。まだ神社参拝に馴染みの薄い頃でしたし。なんでこんなに秘密感があるんだろう?と、それこそ狐につままれたような心持ちで手を合わせた覚えがあります。雑貨集めのお年頃にはちょっと早かったのかな。
荻窪
豊岩稲荷は立地も特徴的ですからね。ビルとビルの隙間を歩いていくと、奥に社殿があるという案配ですから、秘密感はありそう。はじめて来た人はみな「ここに入っていいかな」とドキドキするに違いありません。
宇井野
でも、だからこそ、とても大きな力で願いを叶えてくれるように思うんですよね。
荻窪
よく見ると参道が2個所にあるのですよね。ひとつは花椿通りから。これは資生堂を訪問する人から見つけやすいかも。もうひとつは鈴らん通りから。鈴らん通りの方が表参道になるのかしら。
四角く囲ったところが参道。右側が花椿通り、左側が鈴らん通り。
四角く囲ったところが参道。
右側が花椿通り、左側が鈴らん通り。
宇井野
そうですね。豊岩稲荷は鈴らん通り側のビルに社殿がありますし、このビルの地下に社務所がありますから。それと古い写真には大きい鳥居が写っているものもありますしね。
豊岩稲荷神社の表参道。その横にある階段を降りると社務所がある。
豊岩稲荷神社の表参道。
その横にある階段を降りると社務所がある。
荻窪
この小さな稲荷に社務所があるのですか?
宇井野
はい。言い伝えでは、この稲荷は江戸時代からずっとこの場所にある、つまり社務所もお社もここを動いていないのだと伝えられているのですよ。
銀座七丁目は江戸時代は竹川町だった
銀座七丁目は江戸時代は竹川町だった
荻窪
だからビルの一角にめり込んでいるように社殿があるのですね。
ビルの間を入っていくと、豊岩稲荷神社の社殿がある。
ビルの間を入っていくと、豊岩稲荷神社の社殿がある。
ビルの一角だが、きちんと屋根もあり、神社の社殿としてデザインされているのがわかる。
ビルの一角だが、きちんと屋根もあり、
神社の社殿としてデザインされているのがわかる。
宇井野
よく見ると、きちんと屋根もある神社建築がビルと一体化してるんです。
荻窪
本当だ。社殿の脇に由緒書きもありますね。読んでみると、江戸初期からこの地に火防神、縁結び神として信仰を集めている、とあります。祀ったのは明智光秀の家臣で本能寺の変で活躍した安田作兵衛だったとか。稲荷が火防の神様というのはよく聞きますが、縁結びというのは珍しいかも。
宇井野
では社務所へお邪魔してみましょう。社殿と地下にある社務所は神社のものですから、ビルを建てるときに神社は動かさないという条件を出したのだそうです。
荻窪
外からだと社務所はちょうど社殿の地下にあたる感じですものね。地下という目立たない場所にありながら、けっこう御朱印を貰いに来る方がいるのが印象的です。
宇井野
他にもこちらではお守りの授与もあります。ここでお守りをいただいた方は本当に嬉しそうにされてるんですよ。お守りの色や柄もタイミングで変化させているそうです。参拝の方への心遣いというのかな、ホスピタリティを感じるんですよね。
荻窪
びっくりしました。
宇井野
豊岩稲荷はいろんな場面で取り上げられることの多い稲荷。縁結びの御利益があることでテレビの取材もよくあるそうですから、テレビを観て参拝にきた方も多いのではないかな。男女の縁だけではなく、様々な縁を結んでくれますから、家族の病気が治ったとか、良い社員が入ったというご利益の話もあるそうです。
荻窪
なるほど。テレビで観たりガイドブックで見たりして、御守りをいただこう、と参拝にみえるのですね。縁結びに加え、資生堂が近いという立地も女性の信仰を集める理由になっているかもしれません。
このように参道を奥に入って参拝する人が引きも切らない。
このように参道を奥に入って参拝する人が引きも切らない。
宇井野
今日は特別に本殿の中で参拝させていただけることになりましたから手を合わせに行きましょう。
荻窪
獅子頭がお祀りされているんですね。
宇井野
この辺りだと、波除稲荷にも獅子頭がお祀りされているようですが、こちらでもかつては獅子舞など奉納されていたのかもしれません。
荻窪
古くから街を護っている稲荷だからこそ、ビルに挟まれてもしっかり根付いているのですね。
宇井野
豊岩稲荷は第一印象が強烈だったこともあって、強い力のある、つまりちょっと怖い神様なのかなと思っていたのですが、そうではないということが今回よくわかりました。
例えてみると旅館の大女将、ていう印象かな。名女将って、包容力や豊かな経験値で顧客の幸せを一番に考えてくれるじゃないですか。かつ、キリッとしたプライドもある。そういう豊岩稲荷だから、願いを携えてお参りする私たちの方にも礼儀や覚悟が問われるんですね。
与えるだけがホスピタリティではない、という意識は、銀座の稲荷を守ってゆく私たち守人にも必要なものだ思います。これからもそうした土台の上に、来訪する方々との良い関係を築く銀座の街であってほしいです。