インタビュー

2020で変わる東京、“変えずに変える”銀座の未来

Amazing Ginza! Talk No.1

2020で変わる東京、“変えずに変える”銀座の未来

新たにスタートする「Amazing Ginza! Talk」シリーズ。記念となる初回は、小池百合子東京都知事をゲストにお迎えし、着々と準備が進む東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)や、輪郭が見えつつある「レガシー」(未来に継承したい財産)のこと、銀座への期待などについて、G2020委員長の遠藤彬と大いに語らっていただきました。1年後を見据え、小池都知事から次々と共有された、銀座の街づくりに対するたくさんのアイディア、ヒントとは――。

遠藤
毎日お忙しくて大変でしょうね。ご多忙のなか、銀座にお越しいただきありがとうございます。
小池
今日は暑いなか筋肉体操をやって、次にラジオ体操もやってきました(笑) 銀座には通っている美容院があるのでよく来るんです。銀座は東京を代表する、たいへんプレスティージのある世界一のショッピングストリートだと思います。
遠藤
とても光栄です。銀座は歩いて楽しんでいただける街を目指しています。あまり大きなビルが建たないよう中央区とも協力して、いま一所懸命に街づくりをしています。
小池
そうしてつくられる銀座の風格が、お店1つひとつが織りなす商品も含めて、「銀座」というブランドをつくっているのでしょうね。ですから、あちこちにあるような高いビルは、銀座には似合わないように思います。これからもそれをしっかり継承いただくのが、東京の宝物の守り方でもありますね。
遠藤
周りが高いから銀座は「盆地」になっちゃいましたけれども(笑)、それを大切にしていきたいです。
小池
銀座は東京ナンバーワンの商店街。お客様がただ商品をお買い求めになる場所というだけではなく、「銀座で買われた」という付加価値をつけることのできる商店街です。それがブランドなんだと思います。
遠藤
昔から銀座で育ってきたというか、仕事をしてきたわれわれは、あまり意識していないところもありますが、何となくそういう感じはありますね。今年100年を迎えた銀座通連合会は、大正時代から協力して商店街の通りを管理しています。われわれの次の若い世代も親睦と地域貢献の会を作っています。銀座を大切にしてお客様をもてなしたいという精神は、世代を超えて変わりません。
小池
これからもぜひ、「変えずに変えて」ほしいですね(笑)
遠藤
それが望ましいあり方ですね。

東京2020大会で銀座に期待すること、銀座ができること

小池
東京2020大会期間中は、有楽町に開催都市独自の東京メディアセンターを設えます。メディア関係者のベースであり、彼らが東京や“江戸”について発信する拠点となります。その至近距離に銀座があるわけですから、メディアの皆さんには銀座に出向いて銀座の薫りをかぎながら、世界に向けて発信していただければと思っています。
遠藤
ぜひそうしてほしいですね。
小池
オリンピック・パラリンピックが揃って再び行われるのは、東京が初めてです。2回目のパラリンピックが行われる初めての都市でもあります。障がいのある方がアスリートとなり、人間の能力はここまで可能なのだと証明してくださるような、すばらしい大会になることを期待しています。東京の今後は、日本全体もそうですが、高齢化などの大きな課題があります。パラリンピックを迎えることを機会に、たとえば車いすの方、目や耳が不自由な方々が、暮らしやすく、食事も楽しみも不自由なくお過ごしいただける東京でありたいと思っています。
遠藤
銀座は、選手村からも歩いて来られる距離です。「アスリートウェルカム」という気持ちで選手をお迎えしたいです。
小池
バリアフリーの街づくりの一環で、車いすでもトイレ・バスを含めてできるだけ出入りがしやすい宿泊施設をつくります。街なかから地下鉄の駅にワンウェイでそのまま降りられるような動線も整備しています。
遠藤
銀座も新しいビルを建てる際は、必ず地下鉄からエレベータを設置いただくようにしています。そういう面でもなるべくバリアフリーにしていきたいですが、既にある建物はなかなか難しいですね。
小池
少しスロープにするなど、いろいろ工夫できるといいですね。私も日比谷公園を車いすで移動した際には、砂利道がなかなか難しかったりと、まだまだ工夫の余地を感じます。でも、こんなにいいきっかけはないので、障がいのある方もない方もお越しになる銀座の通りも、さらに価値を高めていただきたいです。ぜひご協力いただいてユニバーサルデザインな街づくりができたらと。2度目のパラリンピックを機会に、銀座が誰にとってもさらにやさしい街になるとPRしたいですね。
遠藤
誰にとってもやさしい銀座、ほんとうにそうですね。パラリンピックを銀座でぜひ応援していきたいです。今、われわれ全銀座会では「ユニバーサルマナー検定」というものを実施して、すでに300名超が受講しています。昔からあるハードは完璧なバリアフリーになりにくいけれども、ソフトの面でそれ以上のおもてなしができるよう、今一所懸命勉強しているところです。
小池
ラグビーワールドカップ2019日本大会では、「TEAM NO-SIDE」というボランティアチームが結成され、研修会で車いすの押し方、広げ方、足の乗せ方などを学びました。この方々が東京2020年大会でもボランティアのリーダーとして活躍いただくことを期待しています。街づくりというハードの部分と、ボランティアというソフトの部分がうまくかみ合う形で、オリンピックもパラリンピックも成功させたいですね。それが2020年のレガシーになると設定して、準備しているところです。

2024年パリ大会に引き継ぐレガシーを銀座でも

小池
次の夏のオリンピック・パラリンピックは、2024年に東京の姉妹都市であるパリ市で行われます。パリ市とは、環境、スポーツ、文化などの分野で覚書を締結していて、2020年のレガシーをパリにそのまま参考にしてもらえるよう、引き継ぎの準備もしています。環境面では、すでに成功が見えている「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」があります。皆さんからご提供いただいた使用済み携帯電話等の小型家電の部品に含まれる金・銀・銅から、選手のメダルがつくられる。これは世界へのとてもわかりやすいメッセージなんですね。駐日フランス大使からパリ市で回収された古い携帯電話の中身を何百個もいただくなど、協力も始まっています。
遠藤
メダルのプロジェクトはいいですね。
小池
東京都とパリ市は、都市としてのCO2、温室効果ガスの排出を2050年までにゼロにする、「ゼロエミッション」という同じ目標を持っています。国と国という単位もありますが、都市と都市という単位は、より具体的な話がしやすいのですね。ぜひ銀座のお店の皆さまにも、「ゼロエミッション東京」にご協力いただけたらと思います。
遠藤
銀座もその方向を目指したいです。小池都知事には、先だって西銀座通りの「銀座柳まつり」や、銀座みゆき通りでのラグビーワールドカップPRイベントで、銀座にお越しいただきました。銀座としても、東京2020大会では国や東京都が行うこと、マラソンなどにも協力させていただきます。そして、ご協力を仰ぎつつ、毎年5月の銀座柳まつりなどをもう少し膨らませて、東京2020大会の気運醸成につながるイベントができたらと思っています。
小池
昨年パリ市役所前の大きな広場で開催した「風呂敷展」が、長蛇の列でたいへん好評でした。風呂敷はアートですので、草間彌生さんにもご協力いただいて。いまレジ袋やプラスチックが社会課題ですが、風呂敷はエコバックとして使えます。今日はこの唐草模様の風呂敷をお持ちしたんですが、それを包む帯の裏面に「包み方」が書いてあります。
たとえばですが、銀座の商店街の皆さんが一体となって「銀座の風呂敷」をつくるのはいかがでしょう。こちらのうちわは、すべて江戸模様になっていて。うちわですけれども、ハイセンスです(笑) 
遠藤
なるほど(笑) これはとてもいいですねえ。
小池
「エコバックです」とお客様にお渡しすれば、銀座が一体となった環境キャンペーンのメッセージになりますし、商品をこれでお包みいただくと銀座のPRにもなります。私は海外の方などにはこうして「包み方教室」をします。両端をこうやって結べば簡単に袋になるんですよ。スイカも包めます(笑) 今、商品と同時に「コト」を買うことが、特にインバウンド(海外からの旅行客)の皆さんの楽しみになっています。銀座のさまざまなお店で、包み方教室をなさるのもいいですね。ここにぽとんと入れれば、ラグビーボールでも何でも入ってしまいます(笑)
遠藤
銀座でしかもらえないような風呂敷だとすてきですね。いただきたいアイディアです。ありがとうございます。ところで、インバウンドといえば「ナイトカルチャー」が話題です。昔は銀座でも夜のパレートなどをやっていたのですが、最近は少々困るんですね。遅くまでやっているお店がそれほど多くはないので。
小池
なるほど。最近は特にそうなのですか?
遠藤
銀座に限らず、日本のお店は終わるのが早いですよね。お芝居を観た後やスポーツ観戦後に食事をするときに「ラストオーダーは21時」と言われちゃうと…。
小池
ナイトライフは、つきつめると交通の問題にもなるのですが、今後もう少し広げていく余地はあると思います。銀座は不夜城のようにしていただくと(笑)
遠藤
今年のゴールデンウィークは10連休でしたが、1日を除いてすべて銀座通りを歩行者天国にしました。交通の実証実験にもなったのですが、それほど支障なくできましたので、われわれとしては、東京2020大会期間中にも歩行者天国にできないかと期待しています。毎年開催する「ゆかたで銀ぶら」という催しは、泰明小学校での盆踊りがとても盛り上がります。そうした盛り上がるものを、来年銀座の歩行者天国でできないかと願っているところです。
小池
銀座みゆき通りに人工芝が敷かれていたのと同じように、先日丸の内の中通りで5日間、100メートル超の人工芝を敷きました。すると、普段来ないお客様もいらして、ものすごく雰囲気が変わりました。いろいろな考え方、方法がありますね。
遠藤
おもしろいですねえ。ぜひ銀座通りも(笑)。銀座でもうちょっと華やかにやれたら、東京2020大会の気運醸成につながると思うんです。先日「オリンピックに対してどのような関心があるか」というアンケートを街なかでとったんですが、まだまだPRが必要とわれわれも感じています。
小池
いろいろプランがおありと思いますが、ぜひいろいろおっしゃってください。大会会場の準備はほぼ目途はついていますので、これから本格的に気運醸成に入ります。ラグビーの次は、東京2020大会の街頭フラッグやバナー、ポスターによる「シティドレッシング」に切り替わります。先日ゴルフの全英女子オープンで優勝された渋野日向子さんや、テニスの大坂なおみさん、陸上でも、アスリートの方々があれだけがんばっておられて、そうしたことも気運醸成ですが、東京都としても、これからもしっかり気運醸成に努めてまいります。ご協力よろしくお願いいたします。
遠藤
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。本日はたいへんお忙しいなかありがとうございました。

(2019年8月7日 新ばし金田中にて)

対談者プロフィール

小池百合子(こいけ・ゆりこ)東京都知事

1952年兵庫県生まれ。1976年カイロ大学文学部社会学科卒業。1992年参議院議員、1993年衆議院議員。2003年環境大臣に就任、「クール・ビズ」(COOL BIZ)を推進し、定着させる。2004年内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策)兼任、2006年内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、2007年防衛大臣などを歴任。2016年7月第20代東京都知事に当選。小池百合子の政経塾『希望の塾』創設。

遠藤 彬(えんどう・あきら)G2020委員長/遠藤波津子グループ代表取締役社長

1943年生まれ。慶應義塾大学卒業後、札幌テレビ放送株式会社を経て、1973年に株式会社遠藤波津子美容室に入社。1993年、同社代表取締役社長、株式会社遠藤波津子きものさろん(現・株式会社ハツコ エンドウ ウエディングス)代表取締役社長就任。銀座通連合会理事長、全銀座会代表、全銀座会G2020委員長を兼任。「銀座街づくり会議」「銀座デザイン協議会」を設立し、銀座の街のさまざまな活動に日々携わっている。東京銀座ロータリークラブ会長、銀座百店会理事、慶應倶楽部常務理事、慶應連合三田会理事等歴任。

  • 撮影 : 鈴木穣蔵
  • 構成・文 : 若林朋子
  • 企画・調整 : 永井真未、竹沢えり子(全銀座会G2020)、森 隆一郎(全銀座会G2020アドバイザー、渚と)
  • 会場協力 : 新ばし金田中