CSR・CSV

ノバレーゼ

Ginza×CSR・CSV Vol.10 ノバレーゼ

未来の食プロジェクト
社員参加型農業支援でおもてなし人材を育成

2014.01.29

「銀座×CSR」第10回は、ブライダルプロデュースとレストラン事業を行うノバレーゼの「社員参加型CSR」について話をお聞きしました。同社は、みかん農家をはじめとした各地の農家を支援し、商品開発まで行っています。同社広報宣伝ディビジョン 野原和歌さんは、「農家と触れ合い、『食』を知ることで、真のホスピタリティーを発揮できる」と話します。

社会貢献参加が社員の人材育成に

  • ─ CSRの分野として「森林保全・子ども・食」に取り組んでいますね。
  • 最初の活動は、婚礼数に応じた植樹でした。でも、それは植樹の費用を寄付するのみで、社員が参加するわけではありません。環境のためにはなるものの、一企業の取り組みとして、果たしてそれだけでいいのかという社長からの問題提起がありました。
    そこで、「社員が参加する、自社でしかできない試みとは何か」と、他の活動を模索しました。
  • ─ 社員の参加にこだわる理由は何でしょうか。
  • 当社では、人材育成を大切にしています。従業員がCSR活動に直接かかわることで、社会貢献しているという実感を持つようになれば、それが人を育てることにもつながるはずです。

    人材がより豊かになれば、いずれ会社主導の取り組みとしてCSR活動を行うのではなく、従業員がそれぞれの生活の中で社会貢献をするようになるかもしれません。そのように導き、環境を整えることの方が重要ではないかと思ったのです。

摘果みかんで新商品を開発

  • ─ 食の分野では、農家の支援をされていますね。
  • 婚礼では、毎年約2万食のお料理をご提供しています。でも、そんな私たちの食生活を振り返ると、食べ物に無頓着だったり、食材の成り立ちを知らないことに気付きました。それではサービスの中で真のホスピタリティーは提供できません。
    そこで、静岡県のみかん農家にお願いをして、収穫のお手伝いをさせていただくことになりました。農家の後継者不足、高齢化や耕作放棄地の問題も注目されていましたので、ブライダル事業が閑散期にあたる8月と12月に何かお手伝いができるのではないかと考えたのです。現在は、青森の果樹農家と新潟の米農家の支援もさせていただいています。

    2011年には、静岡のみかん農家と共同で、未活用だった摘果みかんを使ったお酢「想酢(おもす)」を開発・販売しました。当初予定していた950本は即完売し、2012 年には3000本を増産しました。

みかん収穫のお手伝い

みかん農家と共同で開発した、摘果みかんを使ったお酢「想酢(おもす)」

  • ─ 収穫のお手伝いから、どのようにして商品開発へと発展していったのですか。
  • 農家のお手伝いに行く際には、地域の課題を企業がどのように解決できるのか、自社の知見を提供するワークショップも実施しています。
    初回のワークショップでは、農家の売り先が農協しかないために、お客様が喜ぶ姿を直接見ていないという課題が挙がりました。そこで、農家が独自の商品を作って、地産店で販売することができれば、お客様と直接触れ合うことができると考え、商品化の企画を進めました。
  • ─ その企画ではどのような支援をしたのですか。
  • 摘果みかんの収穫作業や、商品企画、宣伝広報活動などのアドバイスをご提供しました。例えば、アンテナショップ、デパ地下、地産店、地域のスーパーで売る場合の4つの顧客ターゲットに対して、属性、家族構成などを想定し、その人たちが欲しくなる商品、ボトルデザイン、ネーミングなどを農家の皆さんと一緒に考えて行きました。

ワークショップの様子

摘果みかんの収穫、搾汁作業を行なう

労働力だけでなく知見が必要

  • ─ 農家の皆さんも喜んでくださったでしょうね。
  • 初めは、素人を受け入れることに対して躊躇されていました。それでも、私たちは事前研修を行って、農家さんの置かれている環境、日本の食料事情、地域の歴史、文化を知るように努めました。
    すると、農家の皆さんとコミュニケーションが生まれるようになりました。次第に、収穫の作業効率が上がるだけでなく、おじいちゃんおばあちゃんが元気になったとか、父と息子で話し合ったこともなかったことが、第三者を介したことで共有する機会ができたり、副次的な喜びも生まれるようになりました。

    単なる人員の受け入れだけでなく、組織や地域の活性化が進むことになり、今後も中長期的に協働することになって良かったです。
  • ─ 御社だからこそ貢献できていることは何でしょうか。
  • 地域に対して、労働力だけでなく、ブライダルとレストランに携わる企業の知見を提供できている点ではないでしょうか。農業の6次産業化(※)は、農家に知見が入らないと運用できません。全て当社の従業員がやってしまうのではなく、アドバイスや知見、引き出物の販売流通網といった自社の資源でサポートさせていただくスタンスが大切だと考えています。そして何よりも、農家の皆さんのモチベーションマネジメントが重要なのです。
    ※6次産業化=農業や水産業などの第一次産業が、食品加工や流通販売まで携わり、経営を多角化すること。
  • ─ モチベーションマネジメントとはどういった事でしょうか。
  • 例えば、20kgのみかんを30分以内に絞ろうと目標を定めたり、それを今度は25分に短縮してみようと効率を上げる試みをしてみます。
    すると、漫然と作業をするより楽しくなってきて、向上心が生まれてきます。商品開発を通して気づいた大事なことは、商品を作ることではなく、誰のための商品を作って、それが生まれることによって、どのような喜びが自分たちに還元されるのかということです。

    それを農家の皆さんと常に明確にしていくためにも、チームの活性化や向上心を高く保つことが必要だと感じました。その支援こそが、人材育成のノウハウを持つ私たちだからこそできることなのではないかと思っています。

「記号」から実感のこもった接客へ

  • ─ 参加社員へはどのような影響がありましたか
  • 食生活に気を使うようになりました。初めて畑や果樹園に入らせていただくことで、普段何気なく食べていたものが、誰かの手によって作られている事を実感したからでしょう。
    それまでコンビニでお弁当を食べることが多かった人も、スーパーで食材を買って自炊するようになりました。商品の裏の表示を確認するようになったり、菓子パンからお米に主食を変える者も多くいました。農家のご家族と一緒にご飯を頂く体験をして、実家のお父さんお母さんに連絡を取る者もいたくらいです。
  • ─ 実体験を経て大きな気付きを得たのですね。
  • 仕事としてとらえた時、農業はブライダル業とは全く違う仕事だと思っていました。
    でも、プロフェッショナルとして何かを育み、それを提供するプロセスにある信念は、ブライダルでも農業でも全く同じだと気付いたのです。そこから、自分の職業を客観的に見て、自分のキャリアプランを見つめなおす従業員もいました。
  • ─ そういった気付きは本業に活かされていますか。
  • 婚礼でお料理を提供していても、食に興味が無かった従業員にとって、産地は「記号」でしかありませんでした。でも、自ら産地で鳥の声を聞きながら青空の下で農作業を経験し、想い入れや感情が乗ってくると、接客時に「腹落ち」した言葉を使えるようになります。

    また、農家に行くと、作業がしやすいように整備をしておいてくださったり、雨露を払っておいてくださったりと、私たちを受け入れるにあたってのおもてなしの心に感動します。私たちは、果たしてどこまでお客様のことを思ってサービスができているか。ブライダルという付加価値産業に必要なおもてなしについて思いを新たにさせられました。別産業だからこそ学ぶことが多いです。
  • ─ 御社では「CSR」を「企業の社会的責任」と訳さずに、頭文字を取って「Chotto(チョット) Sutekina(素敵な) Revolution(革命)」としていますね。
  • 会社は一人ひとりの人材が作り上げているものです。CSRという試みにおいても、企業という箱がやるのではなく、企業にいる「人」が自分たちのレボリューションを起こして欲しい。そんな想いが込められています。

世代を超えて愛される銀座の街

  • ─ 御社が銀座に移転されたのは2009年ですね。
  • 目抜き通りのウィンドウディスプレイで世界最先端のクリエイションが行われている一方、裏通りには魅力的な老舗の個店も多くあります。本当にこの街の歴史や文化を好きな方が多く集まっていますね。母と娘でショッピングをしたりと、世代を超えて家族で楽しめる街でもあります。

    私たちのような家族の絆を大切にしている会社にとっては、世界中を探しても銀座という街は一番だと思っています。

株式会社ノバレーゼ 営業本部 広報・宣伝ディビジョン ディビジョンマネージャー

野原 和歌

美術館のキュレーター職を経て、2001年にノバレーゼに入社。ブライダルコーディネーター、プランナーを経験。04年にブランディング局へ配属、その後現在の部署で同社の広報・宣伝全般を担当している。同社のCSRも推進している。

インタビュアー

杉山 香林

株式会社オルタナ コンサルタント 外資系IT企業や広告代理店、PR会社で、マーケティング・コミュニケーション、および事業戦略、新規事業開発に従事。2008年に独立、社会的課題解決に向けた啓蒙プロジェクトや、企業とNPOの協働支援、CSR活動のコンサルテイング、実務推進サポートを行っている。

取材・文:杉山香林  企画・編集:株式会社オルタナ

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