GINZA CONNECTIVE (高嶋ちさ子対談シリーズ)

熊谷 道明×高嶋 ちさ子

GINZA CONNECTIVE VOL.25

熊谷 道明×高嶋 ちさ子

2013.10.04

ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんと、銀座人たちの対談シリーズ。高嶋さんにとって銀座は、仕事でもプライベートでも思い入れのある街。そんな高嶋さんに、ゲストの方をお迎えして銀座のあれこれをディープに聞いていただきます。今回のゲストは、お香や書画用品、和文具の老舗「鳩居堂」の14代目社長、熊谷道明さんです。

京都で始めた薬種商が鳩居堂のルーツです

高嶋さん
鳩居堂さんには日頃からお世話になっております。目上の方に御礼状を書くときに、鳩居堂さんのものを使っておけば間違いないと言われていますからね。
熊谷さん
ありがとうございます。
高嶋さん
「鳩居堂」というお名前にはどういった由来があるのですか?
熊谷さん
中国の詩集『詩経』に「カササギの巣があって、そこに鳩がいる」という一節があるんですが、これは巣作りが上手ではない鳩がカササギの巣に托卵している、つまり借家住まいであることを意味しています。それと同様に、カササギはお店、鳩を自分たちととらえて、〝あくまでも店はお客様や世間からの預かり物である〟という戒めの意味が屋号に込められているんです。
高嶋さん
ものすごく謙虚ですね。その姿勢があったからこそ、350年もやってこられたんでしょうね。でも創業当時は、今のようなお香や文具を扱うお店ではなく、薬種商というのをされていたそうですが、これって何ですか?
熊谷さん
いわゆる薬屋ですね。京都の本能寺の門前で薬種商を始めたんです。
高嶋さん
元々は京都なんですか?
熊谷さん
ええ、本家は京都です。うちの祖父は次男なので分家ですね。
高嶋さん
そうなんですか、てっきり銀座が発祥の地かと思っていました。
それで、いつごろから文具も扱うように?
熊谷さん
お香の原料は中国から輸入していましたので、そのうち自然な流れで筆や紙なども輸入するようになってきたんです。
高嶋さん
文房具やお香のイメージが強い鳩居堂さんが、薬屋さんからスタートしたのは驚きですね。
熊谷さん
実は漢方薬とお香って、共通の原料が多いんですよ。例えば、この「龍脳(りゅうのう)」は、お香には欠かせないものなんですが……。
高嶋さん
(香りを嗅いで)わっ!! 龍角散だ!
熊谷さん
そうですね(笑)。清涼感がある香りですよね。こういうものをいろいろブレンドしてお香にするんです。
高嶋さん
昔からのお香って、お薬みたいなものなんですね。

お香の原料となる、植物や樹脂などの天然香料

平安時代に誕生したお香のレシピが、鳩居堂に伝授されています

熊谷さん
「香り」といえば、最近はお香よりもアロマを思い浮かべる人の方が多いですよね。ですから弊社でも従来から扱っているお香だけではなく、アロマ関連の商品も開発するようにしました。
高嶋さん
熊谷さんの提案ですか?
熊谷さん
はい。アロマというと弊社のイメージから外れるので、賛否両論はあったんですけど、お香の代表的な香りの白檀のアロマを開発するなどして、イメージから外れないようにいろいろと工夫しています。
アロマを通じて、お香の香りに触れてもらえればうれしいですね。
高嶋さん
私、こんなことを言ったら失礼なんですけど、目に見えないものは信じられないタイプなので、香りの癒し効果なんて信じてなかったんです。でも、実は今、人生で2番目くらいに落ち込んでいる時期で(笑)、友達からもらったアロマで心が落ち着いて、香りってちょっといいかもって思ったんです。
熊谷さん
よかったです! 香りは脳の原始的な部分に働きかける効能があるらしくて、気分が安らかになったり高揚したりするらしいですよ。
高嶋さん
そうなんですね。今まで香りに全然興味がなかったんですけど、いきなり香水とかまで買っちゃって(笑)。いいなって思うとガーッといっちゃうんですよ。
熊谷さん
これを機に、和のディープな香りの世界にも興味を持っていただけるといいですね。例えばこれは「煉香(ねりこう)」というものなんですが、さまざまな香料を練り合わせて丸薬状にしたものなんです。平安の頃から貴族たちは、オリジナルの香りを作って着物に焚きしめたりして楽しんでいたそうですよ。
高嶋さん
なんだか、正露丸みたいな見た目ですね。
熊谷さん
初めて見た方はそう思われるかもしれませんね(笑)。
高嶋さん
これが平安時代の香り…、なんだかそんな気分になってきました(笑)。
熊谷さん
昔、三条実美公という人がいたんですが、その三条家が宮中のお香を調合する担当をしていたんです。しかし、彼が明治時代の初期に太政大臣になったことで忙しくなったこともあり、お香の係が宮中からも信頼の厚かった鳩居堂に任命されることになったんです。それ以降、平安時代以来三条家が守り続けてきたお香のレシピが、鳩居堂に伝授されているんです。
高嶋さん
すごいですね! そして、この木は何ですか?
熊谷さん
これは「伽羅」という香木の一種で、香木の王様と言われているものなんですが……。
高嶋さん
!…なんでこんなに木に香りがあるんですか?
熊谷さん
不思議ですよね。自然な香りなんですよ。ベトナムなど東南アジアの方でとれる特殊な木なんですけど、すごく貴重なもので、1gが2~3万円します。
高嶋さん
へぇー!すごいですね。金よりも高い…。 お香は奥が深いですね…!

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