GINZA CONNECTIVE (高嶋ちさ子対談シリーズ)

高橋 純×高嶋 ちさ子

GINZA CONNECTIVE VOL.15

高橋 純×高嶋 ちさ子

2012.12.03

ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんと、銀座人たちの対談シリーズ。高嶋さんにとって銀座は、仕事でもプライベートでも思い入れのある街。そんな高嶋さんに、ゲストの方をお迎えして銀座のあれこれをディープに聞いていただきます。今回のゲストは、銀座で1番古い注文紳士服店「髙橋洋服店」の代表取締役社長、高橋純さんです。

伝統の技術を伝承するため、縫製技術指導教室を開講。

高嶋さん
2003年から縫製技術者を育成するための教室を開講されているそうですね。
高橋さん
はい。私が大学を卒業した頃、もう40年も前のことですが、当時はいろいろな縫製の学校があったんですよ。でも、どんどん注文洋服屋がなくなって技術者の需要がなくなってきたんですね。このままじゃ洋服を仕立てる人がいなくなっちゃうなと。それで、店も100年を迎えたことだし、世の中のためになることをしてもいいんじゃないかと思ったのがきっかけで、毎年せいぜい4~5人なんですが、若い人たちに技術を教えています。おかげさまで、卒業生と現役生を入れると現在30人くらいいます。うちでお客様の洋服を縫い始めている子もいますからね。
高嶋さん
素晴らしいですね!
高橋さん
背広1着約30万円の注文洋服屋としては、職人の平均年齢が1番若いんじゃないかと自負しています。うちの職人はもちろんヴェテランもいますが、30代前半がたくさんいますから。
高嶋さん
若いと目がいいから、洋服を仕立てるときによさそうですね。
高橋さん
そうなんです。穴かがり(ボタンホール)なんて、目がいい人に絶対かなわないですからね。
高嶋さん
あれって手縫いなんですか!? ミシンだと思っていました…。
高橋さん
うちのはすべて手かがりですよ。ミシンでかがった穴は味がないじゃないですか。ちなみに、穴かがりを見ると誰が縫ったかわかるんですよ。しかも若い人はやっただけ必ず上達する。年配の職人はもちろん技術はあるけど、目が悪くなるからね、穴かがりだけは若い職人にかなわない。

裁縫技術始動教室の様子

銀座で商売をする私たちが、銀座の顔なんだと思います。

高嶋さん
高橋さんは、銀座生まれの銀座育ちですか?
高橋さん
そうですね。30歳で結婚するまで銀座に住んでいました。本籍地も銀座です。
高嶋さん
すごいですね~。その当時は現在と全然違いますか?
高橋さん
ええ、もっとのんびりしていましたね。
高嶋さん
銀座に遊び場所なんてあったんですか?
高橋さん
ありましたよ。休みの日は道路でキャッチボールしたり、デパートのおもちゃ売り場で遊んだり、松屋の屋上もいい遊び場でしたね。
高嶋さん
銀座は高橋さんにとって故郷でもあると思うんですが、そんな銀座に対する思いを聞かせていただけますか?
高橋さん
明治の時代から、銀座って〝来る者拒まず、去る者追わず〟のスタイルなんです。そして今でも、銀座という街の水に合わなければ自然淘汰されますし、その逆も然り。これからもそうやって新陳代謝を繰り返しながら、よりよい街になっていってほしいと思います。ですから、昔の銀座はよかったという考え方は違うと思うんですね。昔も今も新陳代謝を繰り返してきた街で、そこが他の街にはない魅力ですから。そして、銀座を訪れて下さる人たちにとって、いつまでも特別な街であってほしいと思います。
高嶋さん
それはよくわかります。私も銀座に行くとなると、「ちょっとおしゃれしなくちゃ」という気分になりますから。
高橋さん
そんな風にいい意味で少し緊張感のある街が、銀座だと思うんです。僕が嬉しかったのは、うちの息子たちに銀座に来なさいと言うと、「何を着て行けばいいんだ?」なんて言ってくれるんですね。そうやっていつまでも憧れられる街であり続けるためには、銀座で商いをする私たちが襟を正さなければならないと思うんです。私が心がけていることは、他の銀座のお店にご迷惑をかけないようにしなければならないということ。うち1軒が下品なことをすると銀座全体のイメージが下がるし、ちゃんとしていれば銀座の評判が上がる。銀座で商売をする私たちが、銀座の顔なんだと思いますね。

次回のゲストは……?

高嶋さん
次回のゲストをご紹介いただけますか?
高橋さん
相模屋美術店の代表取締役社長 原田裕介さんです。銀座の老舗美術店で、巨匠と呼ばれるような作家さんから若手の作家さんまで、本当に良いものをずっと提供され続けています。美術に関する様々なお話が聞けるのではないでしょうか。

高嶋 ちさ子

ヴァイオリニスト。6歳からヴァイオリンを始め、海外で活躍後、日本に本拠地を移し、全国各地でコンサートを行っている。現在は、演奏活動を中心としながらも、テレビやラジオ番組の出演などでそのキャラクターが評価され、活動の場はさらに広がりを見せている。

高嶋ちさ子オフィシャルウェブサイト

髙橋 純

1949年生まれ。「髙橋洋服店」の代表取締役社長。1975年、日本洋服専門学校卒業後、イギリスに留学し、ロンドン カレッジ オブ ファッションを日本人として初めて卒業。
著書である『「黒」は日本の常識、世界の非常識』(小学館刊)が発売中。
趣味はスキーとラグビー、夏はスポーツカイト(凧揚げ)。

「髙橋洋服店」ウェブサイト

取材・文:岡井美絹子  取材場所:髙橋洋服店

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