CSR・CSV

ギンザのサヱグサ

Ginza×CSR・CSV Vol.23 ギンザのサヱグサ

銀座を「ソーシャル」の発信地に
- 子どもたちと、地域の未来を思って -

2016.05.16

「銀座×CSR」第23回で紹介させていただくのは、明治維新の翌1869年に銀座の街に創業し、147年の歴史を持つ老舗「ギンザのサヱグサ」の社会貢献活動です。店舗を活用した活動から、農村地域での子ども向け自然体験プログラムの展開まで、子ども服ブランドならではの強みを活かしたCSR活動に自ら精力的に携わる、ギンザのサヱグサ代表取締役社長の三枝亮さんにお話を伺いました。

子ども服を扱う企業だからこそ、子どもたちの未来に向き合っていく

  • ─ 2012年から、環境・社会貢献活動として「SAYEGUSA GREEN PROJECT」(http://www.sayegusa-green.com)を展開されています。
  • ある時、古くからの友人との会話の中で「CSRの全てはどこに帰属するのか」という話題になり、CSRとは、「将来を担う子どもたちのために大人の責任として社会問題の解決をしてあげましょう」という意味であり、結局子どもに行きつくのだということに気付かされたのが最初のきっかけでした。

    その後勉強会などにも足を運びながら、「サヱグサらしいCSRとは何か」を考えるうちに「子ども服屋として、子どもたちに環境の大切さを教えることならできるはず」と「Earth for Children」というコンセプトにたどり着いたんです。

    店舗を活用した「Thinking Green」というキャンペーンでは、店舗にグリーンな電力を導入し、緑いっぱいの空間を演出したり(2012年8月から2015年2月まで年2回開催)、環境をテーマにした子どもたちのためのワークショップを開催しています。また、子どもたちにも親御さんにも、環境や自然の大切さを伝えたいと、森に住む小さなふくろう王子を主人公にしたWEB絵本も展開しています。2013年からは売り上げの1%を環境保全活動に充てる「1% for GREEN」を開始しました。
Store by Green Power

Store by Green Power

フクロウ王子と地球のことを考えるWeb絵本「THINK GREEN」

フクロウ王子と地球のことを考えるWeb絵本「THINK GREEN」

「本物」を届けていきたい

  • ─ 2014年からは、子どもたちを対象にした自然体験キャンププログラム「SAYEGUSA Green Magic」をスタートされました。
  • 先ほど申し上げた「1% for Green」を活用した活動の一つとして、自然に触れる機会が少ない子どもたちに本物の自然体験の場を提供する体験プログラムをつくろうと考えました。長野県の栄村をフィールドに、豊かな自然と、おじいちゃんやおばあちゃんから里山での暮らしを学ぶ「SAYEGUSA Green Magic」というキャンププログラムを、地元で活動しているアウトドア専門のNPO法人とともに開発し、2014年から、夏・冬と年に2回、これまで4回開催しています。お陰様でリピーターも多く、毎回参加者は増え、今年の冬はあっという間に定員に達しました。もっと頻繁に、より多くの子どもたちが体験できるようなフィールドが、将来できるといいなと思っています。
  • ─ 親子向けではなく、子どもだけを対象にしたのは、何故ですか?
  • 私たちは、これまでに培った経験を活かし、安全面で心配のない環境をご提供する自信があります。ですから、敢えて子どもたちだけの体験の場を提供することで、子どもたちや親御さん双方にとって特別な機会を提供したいと考えました。普段は野菜が食べられないと言っていたお子さまが、現地で子どもたちだけのコミュニティで暮らし始めた途端に食べられるようになり、親御さんが驚かれたこともありました。自然体験ばかりでなく、森の中での遊びの創造や集団行動などの体験を幼児期に積むことが、自立心や創造性、協調性を育むことにつながり、お子さまの成長に大きなプラスになります。
  • ─ 何故、長野県栄村をフィールドに選ばれたのでしょうか?
  • 栄村は2011年東日本大震災の翌3月12日に発生した長野県北部地震の被災地でした。その栄村の小さな集落のひとつ、小滝地区に、それまで閉鎖的だった村を解放することで地域を復興したいと取り組む方がいて、その方との出会いが大きなきっかけになっています。栄村、とくに小滝は原風景の残る、本物の里山暮らしが体験できる場所。本物にこだわるサヱグサの想いにも通じるものを感じました。サヱグサを通じて訪れた人の多くが、小滝のファンになり、地域との絆も育まれています。今年からは、この場所で親子を対象にした田植えや稲刈りの体験プログラムも展開します。
    こちらは大自然の中で親子が協働する喜びや達成感などを体験していただきたいと企画しました。
長野県栄村でのSAYEGUSA Green Magicサマーキャンプの様子

長野県栄村でのSAYEGUSA Green Magicサマーキャンプの様子

  • ─ この栄村と小滝地区のお米を再ブランディングし、販売も手がけていらっしゃいます。
  • 「300年先に里山を残す」ことを目標に掲げたこの地域の復興に貢献する上で、私たちの持つ販売のノウハウを活かして、この地域で一番大切にされてきた「米作り」を応援するのがよいのではないかと考えました。
    2014年に「小滝米」という希少なコシヒカリを世界に誇れる日本の米「コタキライス」として再ブランディングし、ワインの瓶に詰めたお歳暮用商品として展開したところ大変好評で、1週間で1000本が完売しました。
    2015年からはブランド「Kotaki Rice & Future」(http://kotakirice.jp)を立ち上げて、本格的な販売を展開しています。
  • ─ CSR活動について、従業員の方の反応はいかがですか?
  • 一番驚いたのは、スタッフの採用面接で必ずといっていいほどGREEN PROJECTについて質問されることで、非常に喜ばしいことだと感じています。

    一方で、社内への浸透は取り組み当初より理解が進んでいるとはいえ、もっと一人一人の心の中からCSRをスタートしてほしいと考えています。そこで現在考えているのが、店舗を活用した子ども服のリユースの仕組みづくりです。サヱグサの服は長持ちするため、昔は、家族や親戚の間でリユースされるお客様が多くいらっしゃいましたが、現在は少子化でそういう機会も少なくなっています。例えば、店舗で不要になった子ども服をひきとり、何度かのリユースを経て土に還るまで活用する仕組みをつくれれば、環境負荷を減らすばかりでなく、社員が本業を通じて、日常的にCSRに携われる場が生まれると考えています。

銀座を、本物の「豊かさ」を発信する街に

  • ─ 環境問題をはじめとしたさまざまな課題を前に、これまでの価値観が大きく見直される時代と言われています。今改めて「豊かさ」についてどのようにお考えですか?
  • 資本主義経済の中で生きていくには、お金を稼ぐことや競争は必要不可欠です。けれども、例えば環境破壊や公害問題のように、企業の行き過ぎた利潤追求活動が、一生懸命生きている人々の生活や人生を傷つけるような問題を引き起こすことがあってはいけません。そういうことばかりが起きる世の中は「豊か」とは言えないと思います。
  • ─ 銀座は、伝統を重んじつつ、常に時代の最先端を行く街として注目を集めてきました。これからのの銀座に、どんな姿を思い描きますか?
  • 銀座は、日本を代表する文化の街。日本の誇りであり続けてほしいと思っています。華やかさや豪華さを競うばかりでは、10年、20年後には時代遅れの格好悪い街になってしまう。これからは「環境」「ソーシャル」といった視点を、街づくりに盛り込んでいくことが必要です。

    銀座の街は、ずっと変化し続けてきた「攻める街」です。銀座にある何千もの店が力を合わせて行動を起こせば、とても大きな力が生まれます。例えば、すべての店舗が灯りをLEDに変えるだけでも相当大きなインパクトが生まれますし、仮に街路灯がすべて太陽光などの再生可能エネルギーによる発電になったとしたら、他の地域にも大きな影響を与えるでしょう。そのような活動から、新しい銀座の姿を思い描いていきたいです。

株式会社 ギンザのサヱグサ 代表取締役社長

三枝亮

1869年創業の子ども服の名店、ギンザのサヱグサ代表取締役社長。
同社専務取締役時代に、本業のかたわら、今後の銀座を牽引する若旦那のひとりとして、本サイト立上げに携わる。

インタビュアー

森摂

株式会社オルタナ 編集長

ライター

今井麻希子

株式会社オルタナ 外資系IT企業等に勤務の後、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約締約国会議(COP10)にNGOの立場で参加したことを契機に、環境やソーシャルの分野に仕事の軸をシフト。生物多様性やダイバーシティをテーマに、インタビューや編集・執筆、教育プログラムの開発や対話型カウンセリング・セッションを手がける。

取材:森摂/今井麻希子 文:今井麻希子 

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