CSR・CSV

文祥堂

Ginza×CSR・CSV Vol.4 文祥堂

価値をつなげて森を活かす
ニッポン木環プロジェクト

2013.07.16

社会の課題解決に取り組む銀座の企業に、「銀座発CSR」をお伺いするシリーズの4回目は、オフィスデザインなどを手がける文祥堂の「ニッポン木環プロジェクト」です。2012年に創業100周年を迎えた記念企画として、本プロジェクトを立ち上げた山川知則さんに、CSRプロジェクト推進のコツをお聞きしました。

都市と森をつなぐ

  • ─ 銀座で創業されて、昨年100周年を迎えられたそうですね。
  • 社史を見たり、先輩の話を聞いたりすると、社会の皆様のおかげで100年間事業を続けてこられたことがよく分かります。100周年の記念企画で、この「おかげさま」の気持ちを表すのであれば、簡単なイベントで終わらせてはいけないと思いました。そこで、社会に恩返しができるような大きいプロジェクトにすることだけは、最初のミーティングで決めました。
  • ─ 100周年の記念企画が「ニッポン木環プロジェクト」に決まった経緯を教えてください。
  • 創業者の佐藤保太郎が、創業以前に生地である静岡県浜松市天竜地区で植林活動を手伝っていたことから、森林に関わることで何か貢献できないかと考えていました。
    当初は、創業者同様に植林活動を100周年の記念イベントにする案も挙がっていたのです。でも、実際に天竜地区など各地の山を見に行って、森林・林業関係者の話を聞くと、現在の日本では木を植えることよりも、木の使い道をつくることの方が求められていることが分かりました。
    現在の日本では、輸入木材、新建材の普及によって、国産木材の利用が減っています。
    木が売れない、森林の管理に費用をかけられなくなる、山が荒れる、という悪いスパイラルに陥っているのが日本の人工林の現状です。そこで、主に都市部で国産木材や間伐材の使い道をつくり出すことで、良い循環を取り戻せないだろうかと考えるようになりました。都市と森をつなぐビジネスモデルで森林保全に貢献するという、事業型CSRへのチャレンジです。

ニッポン木環プロジェクトロゴ

日本では国産木材の利用が減少傾向にある

放置された人工林に豊かさを取り戻したい

  • ─ 人工林が放置されると、どのような弊害があるのですか。
  • 木が成長して過密になることで、日の光が遮られてしまいます。すると木々は光合成が妨げられ、やせ細り、地中深くまで根を張ることもできなくなります。木材にしたときの質も下がります。下層植生も発達せず、山全体の保水機能が低下し、地滑りなど土砂災害の危険性が増します。また下層植生から食物連鎖がスタートする多様な生物にとっても、生きづらい環境ができてしまうのです。
    実際にそのような森を見に行ったときは言葉を失いました。本当に真っ暗で、根がホウキのようにむき出しなのです。そんな状況が日本各地に存在しています。でも、適切に管理された人工林の美しさは圧巻ですよ。
  • ─ プロジェクトでは具体的にどのような取り組みを行なっていますか。
  • オフィス空間の設計・施工を手がけている私たちには、オフィスのプロとしての自負があります。その経験とノウハウを活かして、オフィス家具や内装材に国産木材、間伐材を使っていくムーブメントを作りたいと考えています。 商社なので、これまで自社でオフィス家具や内装材を企画することはありませんでした。「ニッポン木環プロジェクト」では、岡山県西粟倉村で間伐材プロダクトを作っているベンチャー企業、「西粟倉・森の学校(ニシアワー)」(http://nishihour.jp/)と2012年5月に業務提携をして、間伐材を利用した無垢のオフィス家具シリーズ「KINOWA」(きのわ)を立ち上げました。オフィス家具には、サイズや強度など特殊な仕様が求められるので、そういった視点でのアドバイスを提供して、デスクや床材などを商品化しています。 これらの商品と、従来取引のあるメーカーの国産木材商品も含めた売り上げの1%を、一般社団法人フォレストック協会(http://nishihour.jp/)を通して森林所有者に還元する試みを始めています。

間伐材を利用した「KINOWA」のデスクと床張りタイル

大義ではなく価値のアピールを

  • ─ お客様からの反響はいかがですか。
  • 環境問題への関心が高い企業が、「オフィスでも環境への想いを表現したい」ということでご導入いただいたケースがほとんどです。いわゆる「CSRの見える化」です。でも、「環境に配慮しているから」という理由でご購入くださる層は限られています。CSRプロジェクトの一環だからといって、大義ばかりをPRしても、裾野が広がらなければ本末転倒です。次のステップに進むためには、環境に配慮することは当然としながらも、デザイン性や機能性など、多くの層に関心を持ってもらえるような点に注力した商品を作っていきたいと考えています。
  • ─ 事業の一環として継続するには収益の安定化も大事ですね。
  • ビジネスとして成立させることで、初めて継続的な支援ができる体制が整うと考えています。また、国産木材に関わるビジネスで利益を出せることが証明できれば、同様の取り組みに乗り出す企業も現れるはずです。日本の森林問題は弊社一社のビジネスサイズで解決できる問題ではありません。ですから、後続が出てくるように、まずは弊社が手本になりたいと思います。だからこそ売りまくりたいのです(笑)。
  • ─ 販売促進の戦略はありますか。
  • 国産木材、間伐材の製品があまり売れていない理由の一つが価格です。よく、「間伐材は余っている木だから安いだろう」と言われるのですが、これは全くの誤解です。実際は、間伐材もチェンソーや重機で切り倒して搬出しますし、製品として形状を整えるためには通常の木材と変わらない工程が必要です。当然、多くの人手と時間とコストがかかります。それが、商品価格に反映されるため、割高にならざるを得ません。でも、そういった事情は、購入者にとっては関係のないことなのかもしれません。
    そこで、次の商品は、端材を利用したり、他社とのコラボレーションで生産ラインを最適化したりすることで、コスト削減を図りました。他のマテリアルの商品とまともに戦える価格帯まで下げたいと思っています。割り箸の端材を使った新作のタイル、これは今度こそヒットすると思いますよ(笑)。

割り箸の端材を使った新作タイル

価値をつなげて社会に還元する商社のCSR

  • ─ プロジェクト推進にあたって心がけていることは何でしょうか。
  • 自社のリソースだけでは限りがあるので、他社との協働でプロジェクトを推進していこうと考えています。また、通じるものを感じた時はこちらから積極的にアプローチするようにしています。最近は特に、唐突なコラボレーション提案が功を奏しています。 例えば、新作の床材のメンテナンス方法について困っていた時に、大手ワックスメーカーのリンレイ(http://www.rinrei.co.jp/)に突然連絡をしてみました。相談させていただいたところ、杉の間伐材でできた床材に興味を持ってくださり、本格的なテストまでご協力いただけました。
    また、デスクやテーブルの脚部(スチール製)の調達コストを下げるために、量産体制のある家具メーカーのアール・エフ・ヤマカワ(http://www.rf-yamakawa.co.jp/))にも唐突に連絡をさせていただきました。コラボレーションを打診したところ、「社会的に意義があることをやりたいと思っていた」と即OKをいただきました。現在すさまじいスピードで試作まで進んでいます。 もう一つ、プロジェクトの強運を象徴するような例があります。
    日本橋の馬喰町を歩いている時に、映像制作をしているグッドフィーリング(http://goodfeeling.co.jp/)の、木を多用した魅力的なオフィスを偶然見つけました。「今度オフィスを見せてください!」と突然メールを送ってみると、快くオフィスに招いてくださいました。当プロジェクトにも高い関心を持っていただき、お会いしてから1時間で、床材をご提供する代わりにプロモーションビデオを制作してくださるという、「物々交換」にまで話が進展したのです。4人のスタッフがはるばる西粟倉まで来てくださって、5日間にも渡るロケを敢行してくださいました。とても素晴らしいプロモーションビデオに仕上がっています。
    このように、社会的な課題解決を目標とすると、さまざまな方々がビジネスを超えて協力してくださることがあります。そして、この関係は最終的に何らかのビジネスにつながっていく予感があります。つなげなければいけないとも思っています。
    商社は、生産設備を持っているわけではないので、価値をつなげていかなければ存在価値は出ません。CSRにしても同様です。それぞれのリソースを掛け合わせて、いかに「社会的価値+ビジネス」に変えるかが商社のCSRの肝ではないでしょうか。
  • ─ 銀座の街についてはどのような思いを持ってらっしゃいますか。
  • 銀座に対しても「おかげさま」という気持ちが大きいです。新規でお取引する会社の中には、文祥堂という名前を知らない方もたくさんいらっしゃいます。でも、銀座で100年商売をしてきたという事実が信用を補てんしてくれます。銀座の皆さんが大事にしてこられたことが背景に透けて見えるのだと思います。銀座の「おかげさま」です。
    だからこそ、銀座には恩返しをしたいと思っています。皆さんのお力を借りながら、銀座の企業のコミュニティーを作って、社会的なプロジェクトを共同で行いたいです。コラボレーションの例でご紹介したリンレイは本社が、アール・エフ・ヤマカワは支社が銀座にあり、弊社から徒歩2~3分です。このように銀座にはコラボレーションの素地はあると思うのですが、それを育む場が無いように思います。そんな場を作っていきたいです。
    同じような思いを持っている方がいらっしゃいましたら、是非、文祥堂の山川までご連絡をいただきたいです。弊社のニッポン木環プロジェクトの問い合わせページからお気軽にご連絡ください。本気ですよ。

株式会社文祥堂 CSR事業室 室長代理

山川 知則

大学卒業後、株式会社文祥堂入社。
文具・ノベルティ、オフィス家具、システムなど幅広いジャンルの営業、経営企画室勤務を経て現職。
“国産木材を使って場を豊かにする”をプロジェクトのミッションに掲げ、東京中の床を木だらけにするために目下奮闘中。

インタビュアー

杉山 香林

株式会社オルタナ コンサルタント 外資系IT企業や広告代理店、PR会社で、マーケティング・コミュニケーション、および事業戦略、新規事業開発に従事。2008年に独立、社会的課題解決に向けた啓蒙プロジェクトや、企業とNPOの協働支援、CSR活動のコンサルテイング、実務推進サポートを行っている。

取材・文:杉山香林  企画・編集:株式会社オルタナ

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