銀座たてもの探訪

銀座たてもの探訪

銀座たてもの探訪 第2回 銀座ならではの交番

人々が多く行き交う街に必ずあるもののひとつがお馴染みの交番です。
暮らしを守ってくれる機能を備えた小さな要塞ともいえます。
特に銀座の交番はひとめでわかる個性的なデザインのものが多く、建物好きの間では密かな人気を呼んでいます。

宇井野
荻窪さん、早速行きましょう、交番!
荻窪
自首ですか! すみません、わたしがやりました……って、なにを!
宇井野
荻窪さん、なんか悪いことしたんですか?
荻窪
してませんしてません。いきなり交番なんていうから。
宇井野
実はですね、今回の「銀座たてもの探訪」は銀座にある3つの交番を巡ろうと思っているのですよ。
荻窪
なぜ交番?
宇井野
実は長年銀座でご商売をされている方から、「数寄屋橋交差点を取り上げてほしい」てリクエストいただいたんです。
荻窪
いいですねえ。あの交番は建物としては小さいけど、ランドマークというか、銀座の入口を護っているという感じがあります。個人的に好きなのは京橋にある銀座一丁目交番ですね。何気なく歴史的意匠が隠されているという。
今回訪れた3つの個性的な交番。場所を覚えておくといざというとき役立ちます。
今回訪れた3つの個性的な交番。
場所を覚えておくといざというとき役立ちます。

数寄屋橋交番の「まち針」の謎

宇井野
というわけで、まずは千駄ヶ谷にやってきました。
荻窪
なぜ千駄ヶ谷??
宇井野
まずは、数寄屋橋交番を設計された建築家の山下和正先生にお話を伺おうと思うのです。たてもの探訪ですから、まずは建物の話から。
荻窪
山下先生は、フロムファーストビルなど多くの建物を設計されていることをご存知の方も多いでしょうね。大きな商業施設と違う、コンパクトな建物である交番についてお話くださいました。
宇井野
数寄屋橋交番は「デザイン交番」とも呼ばれていて、外部に設計を依頼したということでは第一号だったらしいです。山下先生が得意とされているレンガパネルを使った外装デザインにされていますが、それは銀座という街がレンガ街であったという歴史的な背景も込められているそうです。
荻窪
数寄屋橋交番といえば、とんがり屋根の上に伸びる銀色のポールが有名ですが、あれの真相をご本人の口から伺いたかったのですよね。
宇井野
そうなんです。すでに様々なところで記事になっていますが、ご本人の口から伺うことができました。まず、あれは避雷針として設計したのだそうです。そして本当はその上に彫刻をつける予定で彫刻家の方にも依頼をかけていた。ところが、デザインが上がってくるのにとても時間がかかってしまい、彫刻の部分が決まらないまま、警視庁に模型を見せる期日が来てしまい…仮のものとしてその場にあったまち針か何かを立てていったら、そのまま採用になってしまったそうです。
荻窪
幻の彫刻版数寄屋橋交番ってのも見て見たかったですよね。
宇井野
というわけで、数寄屋橋交差点へやってきました。特徴的でいいデザインですよね。ちょっと物語の中の世界みたいで、可愛らしいんです。
とんがった屋根の上に丸いピンがささってるようなデザインで有名な数寄屋橋交番
とんがった屋根の上に丸いピンがささってるようなデザインで有名な数寄屋橋交番
荻窪
山下先生のお話を伺ったあとだと「まち針」をじっくり見ちゃいますね。
よく見ると単なる球体ではなく、きれいにデザインされているのがわかる
よく見ると単なる球体ではなく、
きれいにデザインされているのがわかる
宇井野
こうしてみると、レンガパネルもそうですが、直線と円の組み合わせも山下先生の世界観が現れていると思います。ちょうど庇の部分が丸くなっていて、細部にわたって凝っている。
レンガもさることながら、矩形と円の組み合わせも印象的
レンガもさることながら、矩形と円の組み合わせも印象的
荻窪
デザイン交番と一口にいっても、非常に限られた敷地で、業務をこなせる間取りと見た目の両方を満たすのはさすがだと思います。
宇井野
ではここから晴海通りを銀座四丁目に向かいましょう。

銀座四丁目の交番は鏡面仕上げ

荻窪
銀座四丁目の交差点といえば、和光と三越と旧三愛ドリームセンター(現在工事中)と銀座プレイスがそれぞれの角に立っていて、交番を置く余地はどこにもなさそうなのですが、あるんですよね。
銀座四丁目の交差点にある小さいけど立派な銀座四丁目交番。よくこのスペースに作ったものだと思う
銀座四丁目の交差点にある小さいけど立派な銀座四丁目交番。
よくこのスペースに作ったものだと思う
宇井野
この狭小建築の極み、みたいな建て方にはびっくりしますよね。交差点の歩道の上にあります。ここも直線と円がうまく組み合わさっている。
荻窪
ちょうど地下鉄の出入口に隣接していて幅もあまり変わらないので圧迫感がないのでしょう。しかもこの鏡面外装で周りの建物が映ってるんですよね。おかげで目立ちすぎなくて交差点も狭く感じさせないという効果があるんじゃないかな。
よく見ると壁面に回りのようすが映っているよく見ると壁面に回りのようすが映っている
よく見ると壁面に回りのようすが映っている
宇井野
お店でも店内を広く見せる効果を狙って大きな鏡を置いたりしますよね。街に置いた大きな鏡みたいにも見えてきました。
荻窪
横断歩道を渡って、和光の前から写真に撮ってみると、とても不思議な感じです。建物や車や通行する人々、と風景が映っていて、建物としての主張をあまりしてこない。これはユニークなデザインだと思います。
このアングルで見ると街に溶け込んでしまって交番だとわからないくらいかも
このアングルで見ると街に溶け込んでしまって交番だとわからないくらいかも
宇井野
忍法鏡の術、を使った交番ですね。それにお堅い施設なんだけど、すごくおしゃれだな。

銀座一丁目交番は屋根の形に注目

宇井野
では中央通りを銀座一丁目に向かいましょう。京橋跡のたもとにあるのでつい「京橋交番」と言ってしまいますが、正式には銀座一丁目交番です。
荻窪
実はこの交番のデザイン、とても好きなんです。
銀座一丁目交番は屋根がポイント。左に明治時代の京橋の親柱が残されているのがわかる。右側が京橋。
銀座一丁目交番は屋根がポイント。
左に明治時代の京橋の親柱が残されているのがわかる。
右側が京橋。
宇井野
この交番の見どころといえばどこでしょう? この個性的な屋根でしょうか。
荻窪
はい。実はこの屋根、かつて京橋川にかかっていた京橋の親柱をモチーフにしてるんですよ。
宇井野
京橋川というと、今の首都高が走っているところですね。
荻窪
ここに京橋という橋がかかってたのですが、明治8年に石造りの橋に架け替えられ、そのときの親柱が交番の南に残されてます。そして、大正11年に更に橋を架け替えた際、アール・デコ風の照明付のモダンな親柱が作られたのです。それがこの交番のモチーフ。実はその大正時代の親柱も交番の反対側に残されているのも必見です。両方が一度に見える場所があるので、そちらから見てみましょう。
右手前が大正時代の京橋の親柱。左奥が銀座一丁目交番。屋根のデザインがそっくり
右手前が大正時代の京橋の親柱。左奥が銀座一丁目交番。
屋根のデザインがそっくり
宇井野
確かに屋根の形がそっくり。
荻窪
それに気づいたとき、警視庁のこのデザインお見事!、と思ったもんです。
宇井野
銀座にある3つの交番、どれも全く違ったコンセプトを感じさせ、かつ個性的ですよねえ。
荻窪
交番なのでどれも回りのビルに比べるとすごく小さいのですが、工夫がみっちり詰まっている印象です。
宇井野
交番は街になくてはならないもの。わたしも困った時に助けて貰ってますし、道を尋ねている方も毎日見かけます。銀座散策のときや、待ち合わせの時、もちろんいざというときも、この個性を目印に辿り着きたいですね。

今回は銀座の個性的な交番のご紹介でした。町の景色としてそとから眺めてほしいと思いますが、警察の方のお仕事の邪魔にならないようにお願いします!