銀座いなり探訪

銀座いなり探訪

銀座いなり探訪 第15回 龍光不動尊

「銀座いなり探訪」のタイトルには稲荷とありますが今回訪問する先は、稲荷神社ではありません。でも、銀座にとっての、大切な祈りの場であり、その場所も銀座のど真ん中。そんな龍光不動尊はどなたでも参拝できますが、意外に気づいてない人も多いのではないでしょうか。

宇井野
今回の銀座いなり探訪はこちらになります。
外装がモダンな松屋銀座。2006年に全面完成した日本最大級のガラス面だそう。
外装がモダンな松屋銀座。
2006年に全面完成した日本最大級のガラス面だそう。
荻窪
おお。銀座三丁目の松屋銀座ですね。ということは屋上の稲荷神社でしょうか?
宇井野
半分正解。松屋銀座の屋上なのは正解ですが、そこにあるのはお稲荷さまではないのです。
荻窪
なんと。三越の屋上には三囲稲荷、GINZA SIXの屋上(旧松坂屋)には靍護稲荷、さらに池袋西武の屋上には伏見稲荷、数年前まで渋谷駅の上にあった東急東横店の屋上には東横稲荷、最近閉館した新宿の小田急デパートにあったのは豊川稲荷と、デパートの屋上といえば商売繁盛の「稲荷」が鉄板かと思ってました。
宇井野
確かに、大商店であるデパートと稲荷はとかくご縁がありそうですものね。まずは中へ入りましょう。
荻窪
松屋銀座って、外装がモダンなので新しそうなのですが、建物自体はすごく古いんですよ。
宇井野
デザインに敏感なデパートというイメージだから古いという印象が無いのですが、実際にはどのくらいの頃からの創業でしょう?
荻窪
実は大正14年開店です。松坂屋が大正13年ですからその直後くらいですね。
宇井野
今は地下鉄に至る地下道もデザインタイルが施されて、レトロモダンというのでしょうか、本当にきれいですよね。
荻窪
でもびっくりすることには大正14年竣工の建物の一部を今でも残しているのです。当時の写真がこちら。
昭和5年の「大東京写真帖」(国立国会図書館デジタルコレクションより)にある「松屋銀座」。今と同じ8階建。
昭和5年の「大東京写真帖」
(国立国会図書館デジタルコレクションより)にある
「松屋銀座」。
今と同じ8階建。
宇井野
今と同じ8階建ですね。そういわれて細かく店内を眺めると、なるほど歴史の痕跡がうかがえそうな箇所がある。
荻窪
面積も当初はこの松屋のある銀座三丁目ブロックの半分くらいでしたが、増築をして今ではこのブロックの松屋通りからマロニエ通り端まですべて松屋銀座ですね。ファサードも新しいから境界もわからなくなってますが。
左が昭和戦前期、右がバブル期の松屋銀座の地図。松屋が大きくなっているのがわかる。「東京時層地図 for iPad」(日本地図センター)を加工。
左が昭和戦前期、右がバブル期の松屋銀座の地図。
松屋が大きくなっているのがわかる。
「東京時層地図 for iPad」(日本地図センター)を加工。
荻窪
今乗ってるエスカレーターの脇もよく見ると1Fから7Fまで吹抜けになってるじゃないですか。これこそが竣工当時からの吹抜け空間なんです。
昭和31年に設置されたエスカレーターの脇は開店当初からの巨大な吹き抜け空間となっている
昭和31年に設置されたエスカレーターの脇は
開店当初からの巨大な吹き抜け空間となっている
宇井野
そう聞くと、どこからどこまでが大正時代に建てられたものか、気になりますね。
荻窪
気になりますよねえ。でもデパート探検していると間に合わないので屋上へ行きましょう。
宇井野
そうしましょう。建物探検はまたの機会にしましょう。
荻窪
屋上へ着きました。屋上に出ると、ちょっとした休憩スペースがあり、その奥に……その奥に何かみえますね。
松屋銀座の屋上。奥にお堂が見える。
松屋銀座の屋上。奥にお堂が見える。
宇井野
はい。こちらです。もっと近づいてみましょう。
屋上に鎮座されている龍光不動尊。
荻窪
えーと、ここは…稲荷神社じゃない、どころか鳥居もないですね。
宇井野
はい。こちらは神社ではなく、お不動さまなのです。その名も龍光不動尊といいます。
荻窪
流行?
宇井野
いや、龍の光で「龍光不動尊」ですが、「龍光」は「流行」とに通じるということで、デザインに敏感な流行の発信地、松屋銀座の守護神らしいお名前とも言われています。
荻窪
不動尊の前に由緒書きがありますね。「龍光不動明王ご尊像」は鎌倉時代の名匠の作品で、昭和四年に高野山龍光院からお迎えしたようです。
宇井野
今回、確たるところまで辿り着けなかったんですけど、その当時の社長さんと高野山に何かつながりがあったのかもしれませんね、引き続き調べてみたいところです。
荻窪
まずは手を合わせましょう。お堂には「不動明王」の扁額がかかってますね。
不動明王と書かれた扁額が。
不動明王と書かれた扁額が。
宇井野
普段は銀座での休息の場所として愛用されているこの屋上ですが、年に3回、成田山深川不動堂より導師様をお迎えして例祭が執り行われているのですよ。不動明王の尊像は、残念ながら拝見できないんですが、その時はまた格別な雰囲気で、歴代、松屋の皆様がお不動様を頼り、守られてきたのだなということを感じます。
荻窪
お堂の廻には睦会や松栄会といった古くからの松屋に出入りする業者の集まりと思われる会が奉納した灯籠などもありますね。これを見ても長い年月を大事にされてきたことがわかりますね。
宇井野
昭和39年の大増築の時には四天王を表す梵字が1階の天井に設置されたんです。お客様の安全を守りたいという老舗デパートの願いが込められていますね。
1階の天井に設置された四天王を表す梵字のひとつ。
1階の天井に設置された四天王を表す梵字のひとつ。
荻窪
デパートなど販売業は商売繁盛や火防のために稲荷を祀ることが多いのですが、こうしてみると不動尊というのもありなんですね。
宇井野
龍光不動のいらっしゃるこのお堂は、まさしく現在の銀座のど真ん中。このお不動様は、銀座の中心でどっしりとこの街を守ってくださっている、ということですよね。この力強さ、頼もしさはまさしく銀座の守護神、と言えるのではと思いました。だから私たちも安心して銀座散策や神社巡りを楽しめるというわけです。松屋銀座を訪問したらぜひ屋上の龍光不動尊にも足を運んで、日々の暮らしの安全を護ってもらえるようお参りして欲しいなと思います。